モンスターハンターの知られざる生活を発見。
大陸の北。
辺境の地に、それはある。
周りを高い霊峰に囲まれた、小さな無名の村。
静かで平和な、そこの名前はポッケ村。
僕はその村の入口に立つと、いつもより軽い荷物を雪山に住む草食獣、ポポの背から下ろした。
「ありがとう、お疲れさん」
また帰りも頼むよ、と付け加えて背を撫でる。ポポは気持ちよさそうに喉を鳴らすと、雪の上に寝転がった。長旅で疲れていたのだろう、ポポはすぐに寝息を立てはじめた。
「よし、それじゃあ商売といきましょう」
一人意気込むと、僕は村の中に一歩を踏み出した。
「なんやて? 回復薬がこんだけ?」
でっぷりと肥えた腹を揺らし、アイテム屋の前でフミは声を張り上げた。
隣にある武器屋のカウンターで寝ていたアイルーが、声に驚いて飛び起きる。
「な、何事だニャ? 地震ニャ? それともマタタビの山でも落ちてきたかニャ?」
「起きたんなら現実を見ような」
武器屋店主の返答に、アイルーは大げさにうなだれる。目の前に立った少年は、その様子を見ると小さな声で笑った。
「ふふ……あ、すいません」
商売の最中に笑ってしましたことを気にしたのだろう、少年は頭を下げる。
「気にせんでええ……それより、どういうこっちゃ?」
フミは話を戻す。
「いや、だからその、えと、回復薬が」
少年は、目を伏せながらぼそぼそと呟いた。彼の手には回復薬のビンが三つほど。
「それで全部、やって?」
「ええ、すいませんが……」
少年はまた頭を下げる。
「こりゃまた何でや? いつも多すぎるくらいあるやんか」
フミは語調をやや強めて追及した。もし出し渋られたりしているのなら、それは自分が舐められていることを意味する。
「ええと、つまりは商隊の一部がモンスターに襲われまして。で僕のところには少ししか回ってこなくて……」
フミはううむ、と首を傾げた。現在回復薬は品切れ中。今日の仕入れに合わせて在庫の管理をしていたのだ。モンスターのせいとはいえ、間が悪いにも程がある。
「しゃあない、じゃあ薬草多めにもらうで」
薬草は回復薬に効果が劣るが、無いよりましだろう。アオキノコと調合すれは回復薬にもなる。
だが少年は目を伏せたまま。不審に思ったフミは、
「まさか薬草もないとかちゃうやろな?」
すると少年は苦笑を浮かべながら。
「お察しが良くて助かります」
「こっちは助かれへんがな……」
それはともかく、これでは困る。商売を生業とする者として、また一人の村人として、ハンターの需要に応えられないのは屈辱的だ。
「集会所のお嬢ちゃんから譲ってもらおか……」
集会所のハンターズストアは、その名の通りギルド直営。つまり仕入れルートも違ってくる。同じ村にいる以上はライバルに当たるのだが、状況が状況だけに仕方がない。
「はい、申し訳ありません……」
少年の言葉を背で受け止めると、フミは店先に『準備中』の札を掲げ、集会所へと向かった。
「よし、あとはこの書籍を並べて終わりですわね」
場所はポッケ村集会所、ハンターズストア。商品の整理をしていたメリスはため息を一つついた。
「黒龍伝説……こんなものハンターさんが買われるんでしょうか」
内容はほぼおとぎ話のようなものだ。ハンターにとってはそんな情報でも有用なのだろうか。一般人のメリスにはよく分からない。そんなことを考えながら、整然と並べられた商品を見つめると、あることに気付く。
「ん、回復薬が少ないですわ」
メリスは店の奥に行き、棚から回復薬のビンが詰められた箱を探す。
「あれ、ありませんの……」
在庫表によれば、まだ十ダース程残っているはずなのだが。
メリスは不思議に思い、店先に戻った。だがそこにも回復薬はない。
「おかしいですわね」
メリスはカウンターの中から発注表を取り出し、最新の発注を確認する。
そこに記されているのは、『回復薬・5』という文字。これが意味することは、
「もしかして……発注ミスですの?」
在庫表には『15』という数字が並んでいる。つまり本来は、発注表の『5』の前に『1』が記されていなければならないはずだ。
「こんな単純なミスをしてしまうなんて……私は何をやってるんでしょう」
後悔したところで現実は変わらない。それは回復薬の数が少ないという現実と、
「もうすぐハンターさんが帰ってくる、という現実ですの」
今からギルド本部に問い合わせたところで、とうてい間に合わないだろう。
「一体どうすればいいんですの……?」
細い体いっぱいに感じるのは絶望感。メリスがこの仕事についてから、初めて得た感覚だ。
そんな中、今できることは、
「村のアイテム屋から分けて頂くこと、ぐらいですの」
言いながら、メリスは溜め息を一つ。
「あのオバサンは苦手ですのに……」
村でアイテム屋を開いているのは、フミという女性。異国の強い訛りがかかった口調、たるみきった体型、雑な性格など、そのどれもが、どこかメリスには合わなかった。
フミは時々、足りなくなった商品を自分の店に仕入れにくることがあった。その時は、彼女の在庫管理能力の無さを内心で嘲笑っていたのだが、まさか自分が行く羽目になるとは。
「屈辱ですの……」
メリスはさらに大きな溜め息をつくと、店の商品を集めて荷台に乗せた。
その行動にはちゃんと理由がある。この店はギルド直営のため、仕入れに使うお金は、普段ならギルドが負担する。だが今回はそれがない。メリス自身が負担する訳にもいかないので、物々交換で交渉しようと思ったからだ。もちろん盗難防止という側面もある。
「それに、これなら値切られることもないでしょうし」
今までフミに値切られ損をした金額を思い出すと、また溜め息が漏れる。
「今日は溜め息ばっかりですわね」
ぽつりと呟きながら、メリスは荷車を押し、集会所を出た。
「なんやて!?」
「ど、どういうことですのっ!?」
フミが店を出てすぐ、僕の耳にソプラノとアルトの二重奏が響いた。集会所の入り口付近から聞こえてきたその声に籠もった感情は、どちらも驚きのそれ。
「回復薬が足りないだなんて……」
「……ホンマに言うてんのか?」
どうやら、ハンターズストアの方にも回復薬が少なかったようだ。となればフミは在庫補充ができないだろう。自分が悪い訳ではないのだが、どこか罪悪感を感じてしまう。
「な、なんでこんなときに限って在庫がないんですの? だいたい今日は仕入れの日じゃ……」
心なしか、メリスは慌てているように感じた。
「それがやな、モンスターが商隊を襲いおって。押しの弱いお坊っちゃんには回って来うへんかった、ゆうこっちゃ」
フミの言葉を聞くと、メリスはこちらを軽く睨みつけてきた。普段からは想像できない鋭い視線に、僕の背筋がぶるりと震える。
「んで、アンタは何でや? 優秀なお嬢ちゃんよ?」
フミは皮肉を込めて聞き返す。
「え、いや、べ、別に発注ミスとかじゃないんですのよ?」
明らかに動揺しているメリス。こんな反応するなんて、彼女は意外と天然なのかもしれない。
「へえ、優等生さんにもそんなことあんねんなあ」
「あ、や、だから違うって……」
慌てるメリスがけっこう可愛い。
「はいはい……ところで、アンタんとこは何個残ってんのや? 回復薬」
軽く受け流したフミは強引に話を変え、ぶっきらぼうに問うた。
「……7個ありますの」
対するメリスの方も、言葉にどこか刺々しいものを感じさせる。
「じゃあ、ウチの3個と合わせてぴったり10個やな」
じゃあここは5個ずつかなー、なんて僕が気楽に思考を巡らせていると、
「私が10個頂きますの」
「ウチが全部貰うで」
二人は見事に衝突した。
「ひ、独り占めなんてずるいですのっ!」
「その言葉、そっくりそのまま返したるわ」
近距離で睨み合う二人の間に、バチバチと火花が散っている気さえ僕にはした。……なんかこれ危ないかも。
「やる気か?」
「やりますの?」
言うが早いか、二人はお互いつかみ合う。
「ほらいわんこっちゃない」
僕はそう呟きつつ、止めに入ることはしない。だいたいこういう時って、第三者が介入してもろくなことないよね。
「こう見えても私、武道の心得はそれなりにありますのよ?」
「ふん、大陸一の女性力士とはウチを言うんやで」
その言葉に、メリスが丸い目をさらに大きく見開いた。
「貴方……まさか」
メリスはそこで一息ついた。よほど衝撃的だったのだろう。
「まさか……女性だったんですのっ?」
メリスの声は村中に響きわたり――
――村中から音が消えた。
その静寂を破ったのは、フミ本人の声。ドスの利かせた、殺気を孕んだ声だ。
「……遺言なら今の内に聞いたるで?」
「ずいぶんと自信あるんですのね?」
なんだかやばい気がする。止めに行くべきかな?
僕が迷っている間に、もう二人は動き出してしまった。正面からぶつかり、手を掴み合う。
「力では負けへんでぇ、お嬢ちゃんよお」
「でも力だけでは勝てないんですのよ?」
そう言い、メリスは体を引いた。それと同時にフミの体が前に傾く。
「単純すぎてつまらないですの」
バランスを崩したフミの足を払おうと、メリスの足が伸び――そしてそれは空を切った。
「えっ……?」
呆気に取られるメリス。
「なんや、たまには腹の脂肪も役に立つんやな」
どうやら、規格外の出っ張りを持つフミのお腹につっかえていたようだ。
「そんなっ……何ですのこのお腹はっ! 太りすぎですのよ! 食料の過剰摂取ですの! 環境破壊ですのーっ!」
悔しかったのか何なのか、メリスがいい感じに壊れた。そういうところも可愛らし……いや、それより今二人は動きを止めている。介入するならここだろう。
「ふ、二人とも落ち着いて下さいよ。こんなことしてもしょうがないじゃないですか」
「何やアンタ」
「邪魔するんですの?」
途端、二人が厳しい目で睨んできた。
「まあ、そういうことになりますかねえ」
目の前で喧嘩見るのも辛いしね。
「邪魔者は排除やな」
「不本意ですが今回ばかりは賛成しますの」
「何ですかその連帯感! あー待ってちょやめ……あうっ! ごめんなさいっ!」
たまらず降伏。僕はもっと強くなりたいです。
「それならいいんですのよ?」
言うが早いか、メリスはまた掴みかかろうとする。
「ちょストーップ! 待ってよ!」
「また邪魔するんですの?」
……目が怖いです。
「いや、そういうのじゃなくて……ほら、もっとなんか平和的に解決できないかなーなんて……ね?」
「じゃあアンタはどっちの味方すんねん?」
突然飛んできた声に、僕は戸惑う。
「いや、どっち、って言われましても……そりゃもちろん……」
かたや商売相手。かたや可愛い女の子。冷静に考え、どちらを取るかは簡単に決まった。
「メリスさんに決まってるじゃないですか!」
「うわ生活より性欲優先なんか! この変態! ロリコン! 人種差別!」
うわなんかこっちも壊れた。でも全く可愛くない。むしろ見苦しいぐらいだ。
「そんなこと言われましても……健全な男なら、とっくに適齢期を通り越したメタボ腹のお婆さんよりも、ピチピチで可愛いい少女を選ぶに決まって……」
「うっ、わたくしは健全でないとでも言うのか……」
突然の声に後ろを振り返ると、そこには黒いスーツを上品な着こなした、いかにも紳士というような初老の男性が立っていて、そして号泣している。
僕はその人の顔を見て呆然とした。
「まさかあなたは……変態紳士セバン、ですか?」
僕が呟いた彼の名。それを聞いて、いつの間にか集まっていた村人からざわめきが生まれる。
彼は子供のころから一人の女性をずっと愛し続けていた。そしてその想いは未だ、一寸たりともぶれてはいないらしい。毎日その女性に求婚し続けているのが、何よりの証拠だろう。
だが、いかんせん相手を間違えている。それはよりによって――よりによってフミなのだ。
「わたくしは……! あの夕焼けの空の下! 焼けるように朱い幻想的な世界の中! ああ初めてわたくしは貴女に!」
あ、また始まった。彼が一度語り出すと、少なくとも半日はそのままだ。残念ながら僕はそんな話聞きたくもない。
僕は変態紳士を村の端に追いやる。戻ってくると、二人が嫌な目で見つめてきた。
「あ、いや、まあ何事にも例外はあるよね?」
とりあえず取り繕ってみた。
「納得いかへんな」
二人共、やっぱり怖いです。
「なら結局どっちの味方ですの?」
「だからもちろんメリ……」
言った瞬間、変態紳士が真っ直ぐに僕の目を見つめてくる。なんとも形容しがたい、哀れむような、蔑むような表情を浮かべて。
「う、じゃあ両方の味方ですよ僕は!」
「それはだめですの! 埒が開きませんわ」
だよね……もともと喧嘩を止めたのは僕だし。その責任ぐらいは果たしたい。そんなものがあるのなら、だが。僕はしばし頭を働かせる。
「そうだ、じゃんけんで決めたらいいんじゃないですか?」
さすが、咄嗟にしては我ながら名案だ。もっと早くこうしておけばよかったよ。
「これなら公平ですし、ね」
二人を交互に見つめ、確認を取る。両方の首が縦に振られるのを見て、
「じゃ最初はグー、で行きますよ。せーの、最初はグー! ……どうしてお互い指を二本伸ばしてるんですか? 僕にはチョキにしか見えないんですが」
二人は顔を見合わせ、
「卑怯ですの!」
「卑怯やないか!」
同時に叫んだ。
「腹黒い貴方ならきっと最初はパーを出すと思いまして」
「性格悪いお嬢ちゃんやったら絶対パー出すと思ってんけど」
言い訳まで同じようなことを言っている。
「なんだかんだ言って……お二人気が合うんじゃ?」
何気なく呟いた僕の言葉に、二人は過剰反応した。
「今何て言うた?」
「何て言いましたの? 今?」
なんだろう。ものすごい殺気を感じる。
「ご、ゴメンナサイ」
僕は反射的に謝っていた。僕だって命は惜しい。なんかもうこの二人が本気で恐ろしいです。
「それより回復薬、どうしますの?」
とメリスが問いかけた途端。
「隙有りや!」
フミは巨体を素早く動かし、メリスの荷車から回復薬をかっさらった。
「甘いですの!」
それを見てか、メリスもフミの店へ走り、回復薬のビンを奪う。
「え、この距離を一瞬で……?」
ここからフミの店まではそこそこ距離があるのだが、メリスの動く姿すら見えなかった。一体どうすればあんなに速く動けるんだろう。
回復薬のビンを持ち、睨み合う二人。その数はどちらも三つずつ。
「むうっ」
「また引き分けかいな」
これまた二人は同じ。やっぱり気が合うんじゃ……
(キッ)
全力で睨まれた。
「何ですかその目はっ! てか僕、今口に出してませんでしたよね!?」
「「……」」
「無視!? せめてなんか反応して下さいよ!」
冷たい風が辺りを吹き抜ける。
「こうなったら力ずくや!」
「望むところですの!」
「ねえ僕はっ!?」
やはり僕には目もくれず、二人は取っ組み合って戦い始めた。技のメリスと力のフミ、お互い一歩も引くことなく対等に渡り合う。
「もう勝手にして下さい! 僕は止めませんからね!」
とは言いつつ、やはり気にはなる。僕は少し離れて観戦することにした。
先ほどで教訓を得たのか、メリスは徹底して後ろを取ろうと回り込んでいた。対するフミは力ずくで押さえ込もうと腕を振るう。
メリスは、大きなモーションで出されたフミの右ストレートを体を左に倒すことで避け、そのままフミの右腕を引っ張りバランスを崩させた。
「もらいました!」
完全に後ろを取ったメリスは、がら空きの背中を押して転倒を誘う。
だがバランスを崩したのはメリスの方だった。背中を押す速度よりも、フミが体を捻る速度の方が速かったのだ。
「甘いでお嬢ちゃん!」
フミはメリスの腕を取り、背負い投げの要領で投げ飛ばす。
「しまっ……きゃっ!?」
「うらああああ!」
軽いメリスは簡単に宙を舞い、スカートの裾をたなびかせながら飛んでいく。……なんともいい光景だ。
「純白、か」
素晴らしい。いやあ素晴らしい。正に幸せ此処に在り、だ。
「や、ちょ、Hっ……」
頬を赤く染め、メリスはスカートを押さえた。そうすれば当然両手が使えなくなり。
「あんっ!」
何かの破砕音と共に、受け身も取れず背中から落ちた。
「あれ、今の音は?」
「ガラスの割れた音みたいやな」
するとメリスは顔を苦痛に歪ませつつ、
「ビ、ビンゴですの……」
「え?」
「ちょうど回復薬があったみたいです」
見れば、メリスの周りにはビンの破片と緑色の液体が散らばっていた。まさかあんな所にあるなんて。フミが奪った後にでも置いたのだろうか。
「ええとメリスさん、大丈夫ですか?」
もしビンの破片で怪我でもしていたら大変だ。そう思って僕はメリスに駆け寄る。フミは隣でいい気味だ、と呟いていたが。
「え、はい、私は」
言いながらメリスは立ち上がるが、僕はあることに気づく。
「スカートが破れてる……?」
そしてその隙間から微かに見える純白。しかもそれは回復薬で濡れており、肌に密着している上に――中が透けている。
「――!」
何だろうこの色気は。スカート短くてしかもそれが濡れてて裂けてて純白見えててさらに透けてて……要するにものすごくエロい。
「ああ、何て幸せなんだろう」
「何がですの?」
しかも本人気づいてないとは。何だか僕今やばいよ理性的な意味でっ!
「と、とりあえず着替えた方がいいんじゃないですか、ほら、回復薬で濡れてますし」
出来れば着替えも手伝いたい、とはさすがに言えなかった。
「そうですね。じゃあ私はここで」
そう言いながら回復薬を荷車に載せた時。
「させるかあ!」
快音と共に回復薬が叩き割られた。
「えええ」
呆然とする僕。しかしメリスは、
「次は負けませんのよ?」
既に臨戦態勢だ。
「上等や、やったろやないか」
言うが早いか、二人はまた取っ組み合う。
「ああでもメリスさん、そんな格好で戦ったら僕……いやそれはだめだ我慢しないと……」
僕が一人で自分という史上最大の敵と戦っているうちに、いつの間にかフミを振り払ったメリスが荷車へ戻り、ある物を取り出した。
「角笛ですの!」
そしてそれを力一杯吹き鳴らす。デリケートなそれは簡単に壊れてしまったが、その代償として――
――その音は村中に響き渡り。
――ポッケ村に棲むモンスターは、野生の本性を取り戻した。
武器屋のアイルーが。
農場で寝ていたポポが。
料理中のキッチンアイルーが。
オトモアイルーは訓練を受けているため反応しないが。
角笛の音に反応し、僕らの前に集結した。
「さあ、みんな、あの人を攻撃するんですのよ!」
しかし、ポポや武器屋のアイルー、キッチンから来た‘黒毛’のアイルー達は動かない。
「な、何ですのその目は……どうしてこっち来るんですか? あ、や、そこはだめですのっ! きゃあっ!」
あーなんだか声もエロい。僕もう意識飛びそう。
黒毛のアイルー、つまりメラルー達は店の商品を次々に奪い、逃げていく。ポポは周りをうろうろと旋回し、武器屋のアイルーは、破れたスカートを引き裂こうとしている。それはアイルーの本能なのか、それとも、理性を失ってもエロさは失わなかったからなのかは分からないが、
……すっごくいい。思わずアイルーを応援したく――
「貴方、後でお話しましょうね?」
なりません嘘です冗談です。
「てか何で僕の考えが分かるんですか!?」
超能力の類なのか。
「それは……や、やめてっ、ああん、そこはっ、だめぇ……」
一方的にやられているメリスは、もはや今にも泣きだしそうにだった。
「しゃあないな。嬢ちゃん、助けたろか?」
さすがに見かねたのか、フミが優しく声をかける。
「お願いします……」
地面にへたり込みながら、メリスはか細い声で答えた。
「おいお前さんら、ご主人様の御帰村やで」
フミが言うと同時に、メラルー達の動きが止まる。
「ご主人様がニャ?」
「ホントなのかニャ?」
「みんな帰るニャ! バレたらまたあんな事やこんな事を……」
「そ、それは嫌だニャ! 帰るニャ! 撤退ニャ!」
「ニャニャ!」
そしてあっという間に消えた。
「角笛で理性を失った、あのメラルー達が一瞬で正気に戻るなんて……」
一体どんなことをしているのだろうか。『あんな事やこんな事』の内容がすごく気になる。
「まあ突っ込まへんのが情けってやつや」
僕はそれもそうか、と納得し、メリスに向き直る。
「ま、とにかくこれで一件落着、ですかね」
「いや、そうでもないみたいやで」
フミの言葉に、僕とメリスは驚いた。
「噂をすれば、ってやつや」
「へっ!?」
「あ……」
振り向けば、そこにいたのは村のハンター。
「……」
気まずい沈黙が場を支配する。
「な、何やってんだ、あんた達?」
ハンターの問いには、三人とも答えられない。なんで僕達はあんなことしてたんだろう?
「ま、いいけどよ」
そう言うと、ハンターはポーチを探り、「回復薬だけか、要るのは」
「悪いなあ兄ちゃん、実は今、回復や……え?」
ハンターは三人の前を素通りし、村の出口付近へと歩いていった。
「おう婆さん、薬草とアオキノコ、あるか?」
「ほいほい、今日は大量に仕入れとるぞい」
薬草とアオキノコ……? もしかして。
「おお、サンキューだぜ。回復薬の完成品買うより安くつくからな、また頼む」
「ほい、分かったぞよ」
薬草とアオキノコを受け取ったハンターは、早足で家へ戻っていった。
二人はお互いの顔を見つめ、それから回復薬の残骸を見て、呆然と呟く。
「ウチらの頑張りは……」
「一体何だったんですの……?」
何はともあれ、ポッケ村は今日も平和である。